小説,  

【明智VS夜の女王】『黒蜥蜴』

江戸川乱歩著『黒蜥蜴』をピックアップ


【作品内の文章を引用しているため、ネタバレをしている記事です】

2015年に春陽堂から発行された『黒蜥蜴』の一部に注目していきます。
三島由紀夫の戯曲『黒蜥蜴』については記事にしましたが、今回は
江戸川乱歩の作品です。(戯曲の記事はこちら

今回引用する言葉はコレ

ああ、なんという大胆不敵。なんという傍若無人。女賊黒蜥蜴は、よりによって、この大歓楽境のまっ唯中、衆人環視の塔上を身代金授受の場所と定めたのであった。このお芝居気、この冒険、あの黒衣夫人でなくては出来ない芸当である。
(略)
エレベーターの上昇とともに、大阪の街が、グングン下の方へ沈んで行く。冬の太陽はもう地平線に近く、屋根という屋根の片側が黒い影になって、美しい碁盤模様をえがいていた。
(塔上の黒蜥蜴 より引用)

【概略】

 著者「江戸川乱歩」とは 

江戸川乱歩は、明智小五郎シリーズ、そして子供向けの少年探偵団シリーズも有名です。
耽美派だと判断しています。
肉体描写が艶かしいとは思わないのですが、「人間の裸」に固執している印象を持っています。
子供向けの作品ではフェティシズムを感じるような描写は少ないです。
大人向けから子供向けまで、幅広く言葉を操る著者の頭の中身はどうなっているのでしょう。
どちらもわかりやすく、想像がしやすい文体です。けれど、もし違う作者だと言われたら、だまされて納得してしまいます。

 小説『黒蜥蜴』について 

江戸川乱歩版の『黒蜥蜴』は、1934年に月刊誌で発表されました。当時は連載だったようです。登場人物は主に2人で、有名な探偵・明智小五郎と美しいものに執着し盗む女賊・黒蜥蜴です。舞台は大阪で、ある宝石商へ「あなたの宝石を盗む」という黒蜥蜴からの予告状が届き、明智がその事件に参戦します。
三島由紀夫版『黒蜥蜴』と変わった部分があります。戯曲の舞台は東京でした。そして、戯曲では2人の恋心がわかりやすく説明されていました。
乱歩のほうでは、黒蜥蜴の熱い恋心は変わりませんが、明智の心がわかりにくい印象を受けました。そのほかにも話の流れなどが変わっている部分がありますが、上記2点が個人的に大きく変わっている印象を受けました。

 なぜ引用部分に注目したのか? 

この話口調、このリズム、声にだして読みたい文章です。
黒蜥蜴に狙われた宝の持ち主が、事情により通天閣へ向かいます。その事情とは、通天閣で待ち構えている黒蜥蜴へ身代金を渡さなくてはいけないというものです。緊張感がある場面の上、この文章のリズムの良さでどんどん先を読んでいけます。噺家や弁士が、近くにいてくれるかのような錯覚を覚えました。
文中にある「グングン」とカタカナにしているところでは、読み手のリズムがゆっくりになり、重たい機械がゆっくりと上昇して、登場人物の体が重力で重たくなっていく様が想像できます。
たまらないリズムを持つ文章です。

この本を取り上げた理由

三島の戯曲と、この小説の内容を比較するのが面白いからです。
戯曲から入ったわたしには、話の始まり方が違うところでひきこまれました。
黒蜥蜴の家の描写も舞台では表現しきれないところを細かく説明されていたので、黒蜥蜴というか江戸川乱歩の趣味を少し理解できた気もします。耽美派の「美しさへのこだわり」を感じることもできました。また、乱歩のフェチシズムである「裸へのこだわり」も少し理解させてくれた気がします。
あとは、登場人物たちの口調が古き良き日本語です。明智小五郎の理性的な言葉遣いにうっとりします。そこもとても気に入っている部分です。

おわりに

本の一部だけではこの本の魅力は伝わりきれません。
これをきっかけに是非、手に取ってみていただければ嬉しいです。
乱歩の世界観を彷彿させる表紙の「文庫本」での購入をお勧めします。

(引用:春陽堂書店

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